前回「出国税」について簡単にご紹介しましたが、今回は実際に私自身が日本非居住者であった際に体験した、「海外での税にまつわる驚愕体験その1」をご紹介させていただきます。
20年ほど前にフィリピンマニラに赴任した時、徐々に日系企業の皆様とも知り合い、
会計・税の専門家として相談を受ける様になりました。
その様な時に後に友人となるM氏がフィリピンに赴任して来られ、私の勤務する会計事務所を訪問されました。その際相談を受けたのが、個人の所得税の件に関しての話でした。
M氏からは、″会社の経理担当より個人的な買い物で貰ったレシートを集めて提出するように言われたのですが、何故でしょうか?“という質問がなされました。
その時私もまだ赴任間もなく、個人での買い物のレシートを会社に出す必要性について分かりませんでした。その為自分の上司にあたるフィリピン人の会計士に確認したところ、“個人の所得税の負担を軽くするために、実際の給与額の何割かの金額を、給与という形では無く、経費精算という形で支給するスキームが、フィリピンでは結構行われている。”という説明を受けました。
フィリピンでは所得税の最高税率は32%ですが、平均的な所得水準が低いこともあり、日本人の感覚から言えば相当低い金額(50万ペソ)(現在1ペソ=2.5円程度)以上の所得は、最高税率の対象となります。また額面での給与から法定福利費の控除や、少額の基礎控除、扶養控除は可能ですが、給与所得控除のようなものは存在せず、ほぼ給与の額面が課税所得金額となります。従って多くの駐在員は、日本で同額の所得を受け取った場合に比べ、相当多額の所得税の納税義務が生ずることになります。
そこで比較的所得が高い層のサラリーマンを中心に、会社の配慮として給与の3割程度を非課税所得にするために給与としては支払わず、会社に対する立替払いの払い戻しとして支給するというのです。
このような処理を行えば、本来給与とすべき費用科目が、交際費、事務用品費、図書費などとなり、企業としては会計上正しくない費用処理がなされるばかりでなく、個人の所得税の脱税にもなります。(責任は源泉徴収を行う企業の責任となりますが)
このような処理をしている会社にも驚きましたが、会計事務所でもこのような処理について、監査上どこまで許容しているのか、非常に気になった覚えがあります。
現在ではこのようなスキームを実施しているような会社はあまり無いとは思いますが、この当時フィリピンでは、このような会計、税務処理が一般的に行われておりました。
ちなみにこのスキームはタックス・シールド(税の遮蔽物)という名称までありました。
「私の会社も使えそうだ。いい話を聞いた。」とマネしないでくださいね。
なおこの話には後日談があります。
M氏は経理担当者より、レシートは年末にまとめて1年分出すように指導されていました。そのため毎月こつこつとレシートを貯めておりました。しかしこのような事情を全く知らない奥様が、11月頃に貯めていたレシートを捨ててしまったそうです。慌てたM氏からは、その後頻繁にカラオケや、夕食の誘いがありました。結局必要額足りたのでしょうか?