前回は出国税(国外転出時課税)について簡単にご紹介させていただきましたが、今回は、海外へのお金、物の流れに関しての税制の対応について「国外財産調書制度」をご紹介させていただきます。ただその前に、非居住者の方にとって、大変困るような取扱いが進行しつつあり、その件を初めにご紹介したいと思います。
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法令に基づく国外送金等取引きに関する法定調書作成事務を目的として、2016年1月1日以降、「海外送金」を行うお客さまへの個人番号(マイナンバー)の確認が必要となりました。
上記に伴い、セブン銀行海外送金サービスをお申込みのお客さまにつきましても、本人確認書類の他、個人番号(マイナンバー)に関する以下書類のご提出が必要となります。
個人番号(マイナンバー)に関する書類のご提出が完了するまでは、海外送金サービスはご利用いただけませんので、ご注意ください。
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上記はセブン銀行のホームページに記載された内容ですが、今後マイナンバーが無いと、海外に自分のお金も送金出来ないという状況が発生してくることになります。この度のマイナンバーの発行にあたり日本非居住者の方については、マイナンバーが発行されませんので、マイナンバーを受け取るためには一度日本に帰国し住民票を入れる必要があります。
海外に住み続ける方も、一旦日本に住民票を入れて、マイナンバーを取得し、再度出向すれば?という様に思うかもしれませんが、一旦帰国し住民票を入れ、再度非居住者となる場合に、出国税の問題が絡んできます。
昨年7月1日前に非居住者となった方が、自らの資金を海外送金するために、マイナンバーを取得のため一旦帰国し住民票を入れ、その後再度出国する際には、出国税の課税対象となる事態が生じて来ます。富裕層の方が海外を利用した節税も許さないといった法制度が着々と作られつつあるように思われます。
「国外財産調書制度」
国外財産調書制度とは、平成26年1月より施行された制度であり、日本居住者の方が、その年の12月31日現在において、その価格の合計額が5千万円を超える国外財産を有する場合には、その財産の種類、数量及び価格その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、翌年3月15日までに提出しなければならないというものです。
先の「出国税」については、海外に新たに居住する方に対する制度ですが、本制度は「日本にいながら、海外での資産運用等を行う者について、その内容を明らかにせよ」という制度です。
現在日本の預金利率など全く無いに等しい様な状況ですから、高い利率の預金を求め、海外で預金するケースもありますし、新興国での不動産の運用についても、日本に比較し、相当魅力的なマーケットが存在しています。
また株式の運用においては、最近日本の市場は乱高下が激しく、プロの投資家にとっては利益が獲得しやすい市場になっていると思いますが、値動きが更に激しい市場により、より高い利益を狙う方々も多数いらっしゃいます。
このように海外にお金が次々と流れていく状況下において、日本の税務当局としても、その実態を把握する目的で、本制度を導入したと考えられます。
またこの調書を出すように促すために、インセンティブ及び罰則規定を定め、期限内に提出した場合には、調書に記載にある国外財産に関して所得税、相続税の申告漏れがあった場合でも、過少申告加算税等が5%軽減されますが、他方期限内に提出しなかった場合や、国外財産に関して所得税の申告漏れがあった場合には過少申告加算税等が5%増しとなります。更には虚偽申告や、理由が無く提出しなかった場合も、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。
あまり知られていないかもしれませんが、銀行は皆さんが海外送金(海外からの入金)等をした事実を税務署に報告する義務があります。
1998年に「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」が施行され、銀行等の金融機関は100万円を超える国外送金(入金)(2009年3月までは200万円超)は、税務署へ「国外送金等調書」を提出する義務が生じ、税務署に対し送金(入金)の内容を報告する必要があります。
従って従来でも皆さんが銀行を通じて100万円以上を海外に送金をした場合、税務当局は既に把握しておりましたが、国外財産調書制度を併用することで、送金した資金の使途についても、報告することが求められるようになった訳です。
また2016年1月1日以降提出の確定申告の際に法定調書として、従来の財務及び債務の明細書が見直され、法定調書として「財産債務調書」の提出が義務付けられました。
提出義務者は「所得2,000万円超」、かつ「総資産3億円以上」又は「国外転出時課税制度の対象資産1億円以上」の所有者の方が対象ですが、この調書では、有価証券の年度末の時価に加え、取得原価を併記することになっており、株式等の含み益が把握できる仕組みとなっております。そのため国外転出時課税制度との見合いで導入されたものと考えることが出来ます。
いずれにせよお金、物の流れの国際化が進むとともに、その実態を把握するための税制が着々と構築されつつあります。
従って、海外にて資金運用などをする場合には、行うべき報告を正しく行い、税務上問題とならないように心がける必要があります。
今後更に日本版FATCA(日本人が海外に所有する預金口座について、海外の銀行に報告を求める制度)などの施行も予定されている様であり、皆様の資産が全世界的にガラス張りにされるような時代がもうそこまで来ております。