今回から数回にわたり、自分が実際に体験したり、聞いたりした、海外進出企業が進出当初に直面した「落とし穴」について、事例をあげながら、皆さんが海外に進出する際、または取引を開始する際に注意すべきことについて、書いていきたいと思います。
海外で子会社を立ち上る場合、その際日本の親会社から役員や従業員が長期で出張し、海外子会社を軌道に載せるまで頑張るのが一般的だと思います。
海外に子会社を作る理由として、海外諸国の安い人件費を使って製造をすることで会社グループ全体のコストダウンを図り、グループ全体の利益アップを図るといったこと、又は海外の市場に向けた販売会社を作り、そこに日本、または現地で製造した商品を売り込んでいくといったことを考えて海外進出を図るケースが多いと思います。
その場合日本の親会社にとってもメリットがありますので、子会社立ち上げのための費用を親会社が一定の範囲で負担することは、なんら問題がないとお考えではないでしょうか。
その一方税務当局からすれば、子会社の立ち上げに関する費用は、直接的な受益者である子会社側が本来負担するべきであるという考え方を持っています。 したがって子会社の立ち上げのために親会社が費用負担した場合、親会社から 子会社に対する寄付であるとし、日本での税務申告上費用としては認めないといった話が起こってきます。(海外の関係会社に対する寄付金は全額損金不算入です。)この際、交通費、宿泊費などの旅費交通費や出張日当のみならず、出張期間において出張者に支払われた給与相当や、社会保険料についても、出張期間に対応する分は子会社が負担すべきものだということで、寄付金として取り扱われた事例も多くあります。
海外に子会社を設立した当初など、子会社が独力で事業を立ち上げることは困難であり、通常ある程度の期間親会社の支援が必要となって来ます。
しかし税務当局からすれば、“この支援は子会社の為ですよね?それであれば子会社が費用を負担すべきですよね?したがって親会社が支払った費用は、子会社への寄付金ですね?” という様な考え方をするわけです。
私がお付き合いしている会社でも、以前海外子会社の設立後の最初の税務調査において、税務当局より同様の指摘を受けて、追徴課税を受けるといった苦い経験をした様です。“子供が独り立ちするのを助けない親がどこにいるのだ。子供の食事や教育費などを親が負担したら、これは寄付なのか?それと同じでしょ。”ということで、その当時の社長が相当掛け合った様ですが、最後は寄付金として認定されることを受け入らざるをえなかった様です。
最も税務当局が当初要求してきた金額ではなく、最終的には数分の1程度の金額で折り合いがついたそうです。税務当局としても、親会社が費用負担することに対して納得出来る理由があれば、それなりの対応をしてくれるということに他なりません。
どのような場合において費用負担が認められるのかその判断は一様ではありませんが、例えば子会社の設立が親会社にとりどれだけのメリットを及ぼすかといったことが、数値で提示出来るように準備し、税務当局担担者が納得出来るような説明を行うことにより、税額を削減するといったことも可能となります。最もこのような問題を回避するために、親会社が負担した費用の全額を貸付金として処理し、子会社側の支払い能力に応じて回収するといった方法を取れば、税務上問題はありませんし、そのような処理を行う会社も多くあります。
いずれにせよ、海外子会社立上げ時における支援の問題については、十分な注意が必要です。