日本で支払われる給与についても、海外で課税される?(重要!!)
さて海外で事業を行うために日本人社員を出向させる場合に、出向者の給与を出向元の法人で負担すると、出向先会社への寄付金のリスクがあることは以前記載しましたが、今回はその話をもう少し詳しく説明するとともに、個人の所得税に関してお話したいと思います。
日本の会社が現地に駐在員を派遣する場合には、日本における社会保険料の支払いに充てる額や、留守宅手当の額等を日本の出向元法人で支払うことが通常行われています。また日本からの出向者に見合う報酬を出向先の現地法人の経営状態から支払うことが出来ず、これについても出向元法人が支払うケースも多くあります。どの程度までであれば寄付金にならないかという金額的な基準は税法上示されていないために、個々の企業の状況により判断されることになりますが、法人税基本通達では、出向者に対する給与の格差補填ということで、
(1) 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与が支給することができないために出向元法人が出向者に対して支払う賞与の額
(2)出向先法人が海外にあるために出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額
については、出向元法人の損金に算入するものとして認められています。
この内容を見れば、日本にいれば貰う程度の給与については、出向先法人で負担する必要があるが、(1)賞与については出向先法人での負担能力が無い場合においては、(2)残された家族の方に対する二世帯になることで増加する追加費用程度までは、出向元法人での負担が認められると考えて良いと判断出来ます。
ただ留守宅手当の金額は社会通念上適切と認められる金額である必要はありますので(これが難しいですが)、ある程度常識的な金額である限りは、出向元法人が支払うことが認められております。
その一方出向者個人が支払う所得税はどうでしょうか?
日本の出向元が支払う給与は日本で納税し、海外の出向先から支払われる給与についてのみ海外で納税すると考えていませんか?
日本の税法上1年以上の予定で日本を離れる方については、日本非居住者として扱われます。そして日本非居住者の方については、日本国内源泉所得(日本の国内で発生した所得)のみが、課税対象とされます。そのため海外で勤務する報酬分として日本の出向元が支払った給与についても日本では課税されません。(ただし役員報酬の場合には取り扱いが変わります。)
それではこの報酬は課税されないのでしょうか?そんなことはありません。
出向先の国にもよりますが、多くの国では、その国で働いたことによる報酬に対しては、その支払元がどこの国にある法人(個人)であろうとも、働いた国で課税されます。
物価水準が低い国などに出向する社員の方について、出向先法人の給与負担を少なく、出向元法人の給与負担を多くし、その分を日本の口座に入れるといったケースも多々ありますが、その場合でも、日本で支払われる給与は、出向先国での課税対象ですので注意して下さい。
そのため所得税率が高い国などに出向した場合には、日本での課税に比較して、非常に高額の所得税を支払う必要が出てくるケースがあります。
更に厄介なのは半年を超えて1年以内の予定で帰国する方のケースです。この方は日本の居住者として取り扱われるため、全世界所得が課税対象となります。その一方で出向先の国の税法や、租税条約の規定によりますが、通常半年を超える様な期間を海外で滞在する場合には、滞在期間中に受けとる給与の全額について(出向元法人の支払額も含め)、現地で納税する必要があります。
そうすると同じ給与に対して、日本と出向先国の双方で課税されるという問題が発生して参ります。その場合外国税額控除という仕組みを利用し、海外で納税した税額(全額とは限りません)を、日本の納税額より差し引く(確定申告で還付を受ける)ことになりますが、その仕組みについては、別の機会に説明したいと思います。
いずれにせよ、日本で支払われる給与についても、それが出向先法人での勤務に基づく対価である場合には、6か月以上の滞在の場合には、出向先での課税対象になる。更に6か月超1年未満の出向については、二重課税の問題も発生してくる(可能性が高い)ということについて、ご理解下さい。なお6か月未満の出向など、年間滞在期間が半年未満のケースについては、日本と租税条約を結ぶ多くの国との間では、183日ルールというものがあり、出向先で負担しない給与については、出向先の国では課税されない規定になっている例が一般的です。ただし原則は海外の勤務に基づき支払われる対価は、数日の勤務でも、日本法人が支払ったものも海外で課税対象となります。
最も数日の出張程度の場合には、出張して行う業務は、日本側の会社の業務の一環として行うものとの位置づけで、現地で所得税を支払うといったことは行われていないと思います。
なお日本の出向元で支払った給与の額について、海外の税務当局は把握の使用もないから、その分については海外できちんと申告しなくても大丈夫では無いのか?という方もいらっしゃると思います。確かに東南アジア等の国々においては、ばれないから大丈夫!といった風潮もありましたが、近年国家間の情報交換も密に行われるようになっております。日本払いの給与について、現地で申告してないケースが発覚し、税務調査で非常に痛い目に合うといったケースも多く報告されていますので、十分ご注意下さい。
一方に日本側では1年以上日本を離れ、海外の会社の為に勤務する場合には、日本の出向元で支払う給与について日本側では課税されませんが、1年以内での出国については、全世界所得に対して課税され、海外で納税した税金については、外国税額控除制度を利用して確定申告にて取り戻すということになります。
いずれにせよ海外勤務になった方に日本側で給与を支払った場合、その分も海外で課税されるのが原則だということをご留意下さい。(ただし役員報酬については取扱いが異なります。)
特に所得税が高い国に出向される方は、税負担が増えるため、会社としてどのように対応するかといった方針もきちんと決定しておく必要があります。
なお役員報酬に関しての取り扱いについては、お問い合わせください。
以下簡単に図で説明します。
(日本法人から支払われる海外法人勤務に対する給与の取り扱い:出向期間別)