「え~。会計期間終了前に納税調査ですか?」
今回は久しぶりにフィリピン駐在時代に実際に有った、税にまつわる驚くべき話について書いてみたいと思います。
ある日、異業種交流会で知り合ったK社長より、税務署から職員が突如会社にやって来て、法人税の前払いを要求されたという話を聞きました。
フィリピンでの法人税の申告は、四半期毎に申告、納税を行います。まず第1四半期の課税所得に基づき納税額を計算し、申告・納税を行い、次に第2四半期までの累積の課税所得が第1四半期の課税所得より大きい場合には、第2四半期までの税額を計算し、既に納税した第1四半期の納税額を差し引いて納税します。第3四半期、年度の申告でも同様の方法により納税を行います。ただし一度納税した税金は還付されることは期待出来ないため、多くの会社では第3四半期までの納税額が、年度の納税額を超えないように、利益の先送りを行う傾向があります。
そのため期中のタイミングで税務調査に入られ、それまでの課税所得の計算において、計上した利益が過少であるとの指摘に基づき、年度末を待たずに、追加で税金を支払えという話しであると思いました。が良く話を聞いてみると、どうやら話が異なります。
その時のやり取りは以下の様であったそうです。
税務職員A:こんにちは、社長さんいらっしゃいますか? あ、いますか?それではお願いします。
K社長 :どうかしましたか?私たちの会社で何か問題でもありましたか?
税務職員A:いや~。そういう訳ではないですが、この前の台風でうちも大きな被害に遭遇し、何かと費用が必要なもので。つきましては、今年度の法人税の前払をお願いしたいのですが。
K社長 :え? 当社はまだ決算終わっていないので、納税額も決まっていませんよ。それは無理ですよ?
税務職員A:いや~。今私にお支払いただければ、今年度分の調査は、指摘事項無しとしますので、XXドル程度で手をうたないかと言っているのです。私の移動はまだまだ先ですので、大丈夫ですよ。ハハハ。昨年度の調査でも、指摘額よりかなり少ない金額で手を打ちましたよね? まあお互い上手くやりましょうよ。ところでランチの時間ですが、どこか美味しいところ連れてって下さいよ。
といった感じだったと思います。
フィリピンでは時々大きな台風が来ますが、その際に家屋が破損するケースが多々あります。国民の大半を占める中間所得層以下にものについては、この修繕費は大きな負担となります。税務署の職員とて同様です。
そこで自宅の修繕に充てるお金を、税務調査をフリーパスにしてあげるかわりに融通してくれという話です。
この話しはK社長が多少脚色して話したのかもしれませんが、この当時は、税務職員の汚職などもかなり酷い状況にありました。(20世紀中の話です。)
ただここで考えるべきは、何故この会社に対して、そのような話があったのかということです。
その当時フィリピンの税務調査は、日本人の私から見ると相応理不尽な調査が行われておりました。そのため調査での指摘事項に対して反論するためには、多大な労力が要求されるようケースが多々ありました。
例えば私がかかわっていたある企業では、派遣会社に対して支払う派遣費用を人件費に計上しておりました。そこで税務調査の際に、これらの人権費に見合う源泉徴収が無いということで、多額の過少申告の指摘をされました。派遣してもらっていた従業員は、派遣元で給与を受け取りますから、実際には派遣会社側で源泉徴収を行い納税していれば、これを派遣先会社で源泉徴収する必要は全くありません。そのため税務当局に対しては、当然そのような説明を実施しますが、これでは話は済みません。結局は派遣会社にお願いして派遣対象者の源泉徴収のデータを過去数年分に渡って入手し、更には納税した証拠として、源泉徴収税の納付票を添付して提出し、ようやく納得してもらえることになりました。
このように労力を要する対応が面倒で、ある程度の要求額を支払って調査を終了させるといったことがその当時は結構行われていました。K社長の企業も過去にそのような対応を実施した様でした。
しかし一度そのような対応を行うと、上得意様として、毎年のように国庫に入らない形で、税務署職員に賄賂が要求されるということになります。
おそらくこの様な話しは、東南アジア、中国などの諸国ではひと昔まえまでは、結構あったものと想います。
そこで私が属していた会計事務所でも、お客様に対しては、賄賂の要求には絶対載らないようにお願いをしておりました。労力はかかりますが、きちんとした納税処理を行っている限り、税務調査の指摘は怖くありません。
なおその後フィリピンでは税務職員の汚職防止の為にいろいろな対策が取られ、現在ではこのような話はかなり少なくなって来たと思います。ただし今でもこのような賄賂要求が撲滅されたわけではありません。先進国以外で仕事を行う場合には、このような誘いにのらないことも非常に大切です。
一度誘いに乗ると、あなたの会社は上得意様となってしまいますよ!!