~海外子会社の利益を合算課税されないための具体的留意点について~
前回は少し横道に逸れ、フィリピンに関するテーマを書きましたが、今回はタックス・ヘイブン税制の適用除外要件の続きについて、今回説明したいと思います。
多少難易度が高いとのご意見もございますが、今回は第15回の続きとしてお付き合いいただければ幸いです。
第15回では、日本の法人・居住者が50%を超える株式を保有する海外に本店のある会社が、その会社がある国において(1)法人所得税が存在しない場合、又は(2)租税負担割合が20%以下の場合には、この会社は特定外国子会社等(タックス・ヘイブン税制の適用対象となりうる会社)となり、この会社の株式を10%以上保有する日本法人(個人)は、この特定外国子会社等の所得金額に、自分が持っている株式の比率を乗じた金額を、法人税(所得税)の計算をする際に、収入額として計上しなければいけないということを述べました。
今回はタックス・ヘイブン税制から逃れるための「適用除外要件」を具体的に説明したいと思います。
「適用除外条件」を満たす上では、子会社が行う主な事業の内容により、下記の ①~④の要件が科される場合と、①~③及び⑤の要件が科される事業に分かれます。
ただし、株式・債権の保有、工業所有権等の提供、船舶・航空機の貸付等を事業とする会社は、そもそも以下に述べる①の事業基準を満たしていないことになり、子会社の所得に対する税負担が20%以下の場合であれば、タックス・ヘイブン税制の適用対象会社となってしまいます。
ここでいう①事業基準とは、主な業務が株式の保有等では無いという基準です。業態によっては、外国子会社が低税率を享受している場合においては、必ずタックス・ヘイブン税制の適用になるということです。
これらの事業はその性質上、わが国でも十分行えるものであり、わざわざ税率の低い国に所在するための合理的な理由が、税負担の軽減しか考えられないというのがその理由です。
ただし、地域統括本部のように、統括される会社に対し、統括業務を行う様な事業持株会社については①事業基準を満たしているとして例外が認めらます。
次に卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業。水運業、航空運送業の7業種は、以下の②~④、その他の事業(製造業、小売業、農業、林業、水産業等)は②、③、⑤の要件を満たすことで、タックス・ヘイブン税制の適用除外となります。
② は実態基準と呼ばれますが、これは子会社が事務所、店舗棟の固定的な施設を、低税率国内に有しているかどうかという基準です。事務所等は賃貸であっても構いません。
③ は管理支配基準と呼ばれますが、これは事業を行うために必要な常勤役員及び従業員が存在し、株主総会、取締役会などがきちんと現地で実施され、会計帳簿の作成や、保管なども現地で行われているかどうかという基準です。
④ は非関連者基準です。これは低税率国にある子会社の各事業年度における売上又は仕入金額の合計額のどちらかの50%超が、「非関連者」との取引であるか否かの基準です。
「非関連者」を説明すると長くなりますが、簡単には海外子会社の10%以上の株式を所有している株主以外と考えて下さい。親会社は当然「非関連者」にはなりません。
上記の7業種において、その主要な取引先の双方とも「非関連者」でない場合、わざわざ海外の低税率国に会社を作るのは、租税回避の意図があると見做すということです。
⑤ は所在地国基準と呼ばれるものです。海外子会社が、主として本店の所在地国で事業を行っているということです。
例えば製造業では、材料の仕入れ、売上の殆どが親会社との取引であっても、材料は現地でなかなか手に入らないために、親会社より輸入するが、現地の安い人件費で製品を作る方が、低コストで製造出来るということであれば、合理性が認められます。そのため製造業などは④の非関連者基準では無く、実際に主にその国で事業を行っているかという⑤の所在地国基準が利用されることになります。
以上海外子会社が所得の20%未満の税負担である場合においても、タックス・ヘイブン税制の適用対象外となる基準を述べて来ましたが、実は適用除外になるためには、もう一つの要件があります。
それは「この海外子会社の親会社が、確定申告書に「子会社がタックス・ヘイブン税制の適用対象外になる旨を記載した書面を添付するとともに、その適用を明らかにする 資料を保存している場合に限り、適用除外を認める」という規定です。この確定申告書への書面添付忘れや、資料の保管の不備により、他の要件をきちんと満たしていても、課税対象とされるようなケースがあります。
更には製造業と卸売業の双方を行う会社で、通常製造業の売上が多きい様な会社が、たまたまある年度において卸売りの比率の方が高かったために、適用除外要件に非関連者基準が入っていたために、タックス・ヘイブン税制の適用対象会社となるといった例もあります。
またこの税制は、海外子会社の所得に対する税負担が20%以下の場合に、適用対象となりますが、税率が20%を超える様な国にある子会社が、有る年度において配当金の受領があり、同国の税法上配当金収入は非課税であるため、その年度は所得に対する税率が20%を下回った場合において、従来適用除外要件を満たしていなかった場合において、配当があった年度において、タックス・ヘイブン税制の適用対象会社となるといった例もあります。
いずれにせよ海外の子会社との取引を行う場合には、十分注意が必要なポイントであると思います。
さて私は先週末までフィリピンに行っておりました。その際、別途行っている海外人材の日本への招聘の関係で、今後お付き合いをする予定の日本語学校を訪問して参りました。そこでは驚くべき授業が行われていましたので、後日お伝えしようと思います