~あなたの所得税+住民税の負担はどれだけですか?~
前回に引き続き皆様が海外に子会社を持つ日本の親会社の経営者であると想像してみて下さい。前回では日本と海外において企業に対する税率差を利用し、海外の方が日本と比較して税率がかなり低いような場合には、海外拠点で利益を大きく出して、そこから配当した方が、日本の親会社にお金が多く残せるケースを説明しました。
ただ更に積極的に進んだ経営者の方は、個人の所得税率の差についても着目し、さらなる税負担の削減を図り、会社にお金を残すことを考え、実行に移しています。
経営者の方が個人の所得に対する税負担を大きく削減することが出来るのであれば、手取額を維持する観点からは、会社の自分に対する報酬を大きく下げることが可能です。そうすることにより、更に会社にお金を残すことが可能となります。
例えば皆さんの収入が役員報酬だけで、課税所得が1億円あるという場合を想定して下さい。
“そんなにもらってないよ”という話はとりあえず横に置いておいて下さい。
この方の場合所得税、住民税、復興特別所得税の合計額は合計5,105万円の税負担が生じます。
実に50%以上の税負担率ですよね。
そこでこのような高額の税負担を下げたいと考える経営者は、自分が日本にいなくても会社は
回るんじゃないの?と考えます。
実際にIT企業などでは、インターネットに繋がりさえすれば、どこにいても構わないといった
方が多くいらっしゃいます。
そこでIT企業の若手社長などは、海外のリゾート地などに居を定め、遠隔地から日本の企業を運営するといったことが多く行われています。
そのような場合、所得税はどのように変わってくるのでしょうか?
一方非居住者の役員の方については、報酬を日本企業より、同企業の役員報酬として受け取る場合には、20%の源泉徴収が必要です。また復興特別所得税は、所得税額の2.1%は別途かかります。しかし住民税は非課税です。
そうすると1億円の課税所得の場合には、合計税負担額は2,042万円となります。
合計で実に3,063万円の節税になります。1億円の所得に対して、実に3千万円
以上の節税が可能となるわけです。
ここで会社思いの経営者の方は、自分の手取額を3千万増やすことは必要無いので、従前の手取り額を維持しながら、会社の役員報酬負担を下げようと考えます。そうすると会社の役員報酬額は、64,000千円程度まで避けることが可能です
居住者時代: 1億円— 5,105万円=4,895万円
非居住後: 6,160万円- 1,258万円=4,902万円
そうすると会社負担は1億円—6,160万円=3,840万円も削減することが出来ます。この削減分は会社の課税金額を押し上げることになりますが、税率が30%とすれば、70%分の2,688万円が残ることになりますので、社長が海外に居を移すだけで、会社にとっては、27百万円近くのお金を残せることになります。
(正確には、非居住者の方は社会保険料を課税所得の計算上差し引くことが出来無いといった規定がありますが、今回の例はモデルを単純にするために、その点は割愛しています。)
なお最近一時期ノマドワーカー(遊牧民的労働者)といい、働く場所を定めずにノートパソコン一台を持って、海外などを点々としながら働くスタイルが話題になりましたが、このような働き方が話題になったのは、居住地を定めないことで、どこの国の居住者にも該当せず、納税の必要が無いといった働き方が可能であるというような考え方が話題になったからです。
ただこのような働き方は、税務上の観点からはリスクが高くお勧めできません。税法上はどこかの国の居住者とならざるを得ません。ただ世界中を旅している方の場合には、技術的に居住地を定めることが難しいといったことで、所得税の課税を免れているといったことはあると思います。
一方、海外のどこか好きな場所の住居を構え、そこを拠点として働く場合には、税務上のリスクも、全く異なってきます。もっとも全て給与は日本の法人より貰うのに、日本での非居住者として認められるのかといった点については気になるところですが、この点についてもきちんと要件をきちんと満たせば、心配することはありません。(これは別の機会に説明します。)
いずれにせよ経営者の大半の方は、このような働き方は難しいとは思われますが、IT系の会社を始め、若手経営者を中心に、このような働き方が普及しつつあるということは、頭の片隅に置いておいて下さい。
IT技術の発達により、世界中どこにいようと出来るような仕事は着実に増加していると思います。そのうち高額所得者は日本からいなくなるといった事態が起きるかもしれません。