ここ数日衆議院予算委員会において白紙領収書問題がニュースを賑わしています。今回共産党の小池議員より稲田防衛庁長官、菅幹事長などが、政治資金パーティーにおいて、主催者側より白紙領収書を受け取り、自ら金額、日時などの記載を行っていたことが指摘されましたが、これについて両者は認めたものの、「合法だ」と答弁したことにより、大きな波紋を呼んでいます。つい先日富山市議会の領収書偽装問題などもありましたが、領収書について代金受領者ではなく、支払者側が自ら記載するといった行為については、行為自体が、偽装を疑われる要素を多分に有しています。「君子危うきに近寄らず」という言葉がありますが、国民の疑義を喚起するような行為については、極力止めるべきでないかと思います。
たとえその日時、金額、内容が適切なものであったとしても、国民としては「少しは水増ししているのでは?」と思うのではないでしょうか。
ただ我々の日常においても、白紙領収書を受領したことがあると思います。例えばバーやスナック、タクシー乗車などで白紙領収書を貰ったことはありませんか?これって実際には、発行側にとってはかなり怖い話だと思います。また受領した白紙領収書に実際に使用した金額以上の金額を書き込み、精算を行うといった行為については、明らかな詐欺行為でありますが、このような話も日常的にあるのは事実だと思いますので、政治家のみを責めるわけにはいなかいと思います。
領収書は発行者側に取っては、自らの収益の金額、受領日時、内容、相手方を明らかにする証拠書類であり、受領者側に取っては自らの支出金額、支出日、内容、相手方等を明らかにする証拠書類でありますので、正しい経理処理を行ったことをサポートする証拠資料として、重要な証拠能力を有しています。そのため原則的に、そこに記載された内容は真実であるとの前提で、会計、経理、税務処理などは行われることになります。そのため領収書の証拠能力を悪用した偽造も行われることになります。偽造の抑止の為に最も重要なことは、発行者である代金の受領者がきちんと事実に基づき記載することだと思います。発行者側からすれば事実より過大な金額を記入すれば、それだけ税額アップに繋がりますし、逆に実際の受領額よりも過少な金額を記入すれば、支払側から受領を拒否されることになるため、常識的に考えれば正しい金額を記入することになります。そう考えると白紙領収書の発行などは、
本来行われることは、異常な事態であると思います。
その一方日本では税務上経費に計上するために“領収書が無ければ経費計上出来ない。”
といった税法上の規定はありません。
領収書は支払った金額、時期、相手先、内容を客観的に示す重要な証拠書類ではありますが、別の方法で支払ったことを証明出来るのであれば、必ずしも領収書は必要ありません。
そのため銀行から自動引き落としされる光熱水道費などをはじめ、銀行振り込みを行う経費支払いについては、領収書を受領しないケースは多々あります。
他方私のいたフィリピンを始め、多くの国では公式領収書や公式請求書が無ければ、経費計上は一切認められません。また公式領収書、公式請求書には記載要件が細かく定められており、そのうち一部でも記載が欠けていると、その記載要件の不備を理由に、経費計上が認められません。
このような国では公式領収書(請求書)が無い支出は、税務上の費用と出来ないために、経理担当からすると非常に大きな抵抗感が有ります。ただ実際には公式領収書を発行してくれないケースもありますが(個人との取引)、いずれにせよ領収書、請求書の法的証拠能力についての意識は、日本とは比べ物にならないほど高いと思います。
私自身は日本の様に、実際に支払ったことが証明出来るのであれば、領収書など無くても経費として認めるという方が良いと思いますが、このような実務慣行が、領収書の証拠能力に重きを置かない風潮を生み出し、白紙領収書の授受についても違和感を覚えないような風土を生み出しているとすると、やはり何らかの措置は必要であると思います。
今後消費税の引き上げ実行時には、食品など一部軽減税率項目での取引が予定されており、そのような場合には負担した消費税の金額、税率を明らかにするために、インボイス方式の導入が検討されています。簡単に言えば、財、サービスの提供者側は、販売品目毎に消費税率、税額が記載された請求書を発行することが必要となり、購入者側では、この請求書を保存しておくことが、仕入れた際の消費税を控除する要件になるということです。
このような実務が要求されるようになれば、日本においても領収書、請求書の作成、受領に関する意識の高まりが増していくようになり、白紙領収書といった問題も、解消されていくのではないでしょうか。
インボイス方式については、詳しくは次号で触れたいと思います。