〜 海外からの留学生のバイト代や技能修習生への給与に関する所得税について〜
新年あけましておめでとうございます。
2017年が皆様の取り良い年になることを祈願いたします。今年もどうぞ宜しくお願いいたます。
さて昨年度末に、フィリピンより新しく技能実習生を入れた会社の方から、「実習生達の給与が非課税になるために租税条約の適用申請を行いたいのだが、申請について代行してもらえますか?」というお問い合わせをいただきました。
私としては今までフィリピン人技能実習生の給与に関して租税条約の適用申請は行ったことがありませんでしたが、「こちらで行います。」と一旦お答えした後に、租税条約を調べてみました。
その結果、学生さんや技能実習生が受取る給付金や給与については、日本が各国と締結した租税条約の内容が、国によりかなり相違していることが分かりました。お電話をいただいた企業様では、以前中国人の技能実習生を受け入れていらっしゃったので、このような依頼があったことも分かりました。
以下いくつかの国からの学生や、実習生の受取る給付(給与)の、所得税に関する取り扱いについて見て行きたいと思います。
例えば日本とベトナムの租税条約(日越租税条約)第20条において、以下の様に規定されています。
「専ら教育または訓練を受けるために一方の締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞在の直線に他方の締約国の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付については、当該一方の締約国の租税を免除する。ただし、当該給付が当該一方の締約国外から支払われるものである場合に限る。」
この内容について、一方の締約国=日本として内容を要約すると、以下の様な内容となります。
「教育、訓練を行う目的のみで日本に滞在する学生又は事業修習者(技能実習生等)で、ベトナムの居住者又は日本に来る前にベトナムの居住者であったものが、生計、教育、訓練のために受取る給付は、日本では非課税とする。ただしこの給付は、日本国外から支払われるものに限る。」という意味です。
すなわち、「教育や訓練のために親元や親戚などから負担をしてもらうお金については、日本では課税しませんが、日本で稼いだ分は日本で課税します。」という内容であり、日本の訓練先(実習企業)などから給与を支給される給与については、所得税の対象となります。
一方中国の場合はどうでしょうか。
日中租税条約第20条では以下の様に記載されています。
「専ら教育または訓練を受けるため又は技術的経験を習得するため一方の締約国内に滞在する学生、事業修習者又は研修員であって、現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞在の直線に他方の締約国の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付又は所得については、当該一方の締約国の租税を免除する。」
こちらについても、一方の締約国=日本として内容を要約すると、以下の様な内容となります。
「教育、訓練、技術取得を行う目的のみで日本に滞在する学生又は事業修習者(技能実習生等)または研修員で、中国の居住者又は日本に来る前に中国の居住者であったものが、生計、教育、訓練のために受取る給付は、日本では非課税とする。」とされています。
そうすると中国からの技能実習生は、租税条約の適用を受ければ、日本企業より受取る給与は非課税となります。
最後にフィリピンの場合についてはどうなっているでしょうか。
日比租税条約第21条では以下の様になっています。
「一方の締約国を訪れた時点において他方の締約国の居住者であった個人であって、主として、
(a) 当該一方の締約国内の大学その他の公認された教育機関において勉強するため、
(b) 職業上の若しくは専門化の資格に必要な訓練を受けるため、
(c) 省略
当該一方の締約国内に一時的に滞在するものは、次のものにつき、当該一方の締約国内において租税を免除される。
(1) 生計、教育、勉学、研究、又は訓練のための海外からの送金
(2) 交付金、手当又は奨励金
(3) 当該一方の締約国内で提供する人的役務によって取得する所得であって年間千五百合衆国ドル又は日本円若しくはフィリピン・ペソによりその相当額を超えないもの
とされています。
こちらを要約すると、以下の様な内容となります。
日本を訪れた時点では、フィリピンの居住者であって、
(a) 日本の大学やその他公認された教育機関で勉強をする者、
(b) 職業に必要な訓練を受けるもの
が一時的に滞在する場合には、以下の所得については日本で所得税の対象とはしない
(1) 生計、教育、勉学、研究、又は訓練のための海外からの送金
(2) 交付金、手当又は奨励金
(3) 日本での労働の対価として受け取る年間1,500US$相当以下の所得
なおここで一時的とは、(a)の場合には5年以内、(b)の場合には3年以内とされています。
フィリピンの場合には、年間1,500ドルまでの所得であれば日本で働いた対価としても非課税とすることになりますが、技能実習制度で1年間滞在すれば1,500ドルは簡単に超えてしまいますので、実質的には課税ということになります。
(なお租税条約が締結されたのは昭和55年の話であり、その当時の1,500ドルは日本円では35万円程度でしたので、仕送りは別に、1か月3万円程度のアルバイト代は非課税にしてあげますよという話であったと思います。)
その他の国ではタイの場合は、中国と比較的近い制度になっており、実習中の所得について非課税とすることが出来る様な規定になっています。他方インドネシアについては課税となっています。ご興味のある方は租税条約検索サイトでご確認下さい。
最も日本の居住者であれば、基礎控除や扶養控除などを受けることは出来ますので、租税条約の内容にかかわらず、所得税非課税となる場合も当然発生して来ます。
いずれにせよ学生、技能実習生への給付の取り扱い一つをとっても、各国との租税条約との内容が、大きく異なっておりますが、一般的に発生しやすい利子、配当、使用料などの取り扱いについても、租税条約の内容が国により異なっています。
皆様が海外との取引を行う際には、取引を行う国との租税条約の内容をきちんと確認の上、取引を行っていただくようお願いいたします。