先日宮城県の某地方銀行様の主催するアジア・ビジネス・フォーラムにおいて「外国人技能実習制度について」というテーマでパネルディスカッションを行う際に、モデレーターとして参加させていただきました。
「外国人技能実習制度」の趣旨は、 開発途上国等の青壮年労働者を一定期間産業界に受け入れ、経済発展・産業振興の担い手となる人材の育成を行うために、先進国の進んだ技能・技術・知識(以下「技能等」という。)を修得させようとする制度であり、技能実習生へ技能等の移転を図り、その国の経済発展を担う人材育成を目的としたものです。
しかし「外国人技能実習制度」については、制度に関する誤解も多く、発展途上国の人材を低賃金で、3K職場に送り込むための便法などといった理解をしている方もおり、「現代の奴隷制度」などと書き立てるマスコミなどもあります。
ただ、今回パネリストとして参加いただいた企業様では、制度の趣旨を良く理解され、実習生と良好な関係を築き上げている企業様であったので、彼らが説明する実習生利用についてのメリット、注意点、接し方など、どれをとっても参加者の方には大変参考になるものであったと思います。
さて今回ディスカッションの中で「技能実習生の逃亡防止策」というテーマに触れる機会があり、それぞれの参加者の方から意見が出されました。
その中で、日本に来る前、来てから、返る前 の3つの時点において、それぞれ重要なポイントがあるとのお話が、技能実習生の送り出しを行っている機関の方よりありました。
来る前には、「どのような会社で、どのような職場で、どういた仕事を、どのような条件で行う。」のかをきちんと伝えると同時に、実際に来日する人間と事前に面会し、お互いのことを良く理解した上で来日するということ。
来てからは、「事前に約束した勤務条件を守り、自社の社員としてきちんと扱うこと。」や、「日本人従業員が、彼らに対し適切な支援を差し伸べ、職場に早くなじめるようにすること。」が重要であること。
そして帰国前には「現地に戻ると、収入が数分の1に減ってしまう様な環境に戻ることを恐れ、帰国前に逃亡を考える実習生も多いことから、帰国後に実習成果を生かして、安定した収入を獲得出来る道筋をきちんと用意してあげる。」といったことが、逃亡を避けるために重要であるといったお話でしたが、どれも非常に重要なポイントであると思います。
ただそれよりも重要なこととして、「来日前に多くの借金を抱えさせない」という点について、私より追加でお話をさせていただきました。
「技能実習生」を送り出すにあたり、現地の送り出し機関が、実習期間を満了するために「保証料」を徴収することは禁止されていますが、送出料を徴収することについては、違法ではありません。
そのため中国などを中心に、実習生を送り出す際において、多額の送出料を本人から徴収する事例が後を絶たないといった事態があります。
そこで昨年11月に成立した「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では、各国政府と協力し、法外な送出料を徴収するような、不適切な送り出し機関を締め出すような働きかけを行う様な考え方が盛り込まれております。
今まであまり表には出ていませんでしたが、来日前に多額の借金を背負わされた実習生であれば、来日後に、より高い賃金を謳う様な甘い誘惑や、同国人のネットワークを通じた誘いなどがあれば、ついつい乗ってしまうということが多々あると思います。
現在ベトナムでは3,000ドル、ミャンマーでは3,800ドルまでに送出し料を規制するといった法律が出来たようですが、実際にこの法律を守らない送出機関も多々あるでしょう。
一方我々が受け入れをしているフィリピンに関しては、海外への人材輸出国ということもあり、海外へ働きに出る労働者を保護する法制度がきちんとしており、日本への技能実習の送り出しに関して、送出料の徴収は禁止されております。
最も送出し機関とて、営利企業でありますので、受入を行う企業からは、実習生送出し前の研修費は徴収しますし、また日本で実習を始めた後も、日本の監理団体が徴収する管理費の一部を受け取ることで、機関の運営費は捻出しています。ただ送り出される実習生からは一切費用は徴収しませんので、来日した段階で既に大きな負債を抱えて来る実習生に比較すれば、多少の給与アップに吊られて逃走し、不法就労に走る可能性は、非常に少ないと言えます。
今回の保護法案でも、「送出費用を一切徴収してはいけない。」とは言っておりませんが、実習生が徴収される送出し費用などは、今後書面により申告させる形になり、日本サイドでも漸く本腰を上げて、この問題に取り組むようになって来たと思います。
いずれにせよ金銭面での不満が、逃亡の大きな要因になっていることは間違え有りません。今後送り出す側も、受け入れる側も、今回の保護法案の趣旨をきちんと理解し、同制度の健全な発展が図られること望みます。
同制度に関心のある方は、是非ご一報下さい。