先日、私が参加する盛和塾(京セラ名誉会長の稲森和夫氏を塾長とする勉強会)の月例会において、稲森塾長が65歳の頃に、会計について語ったDVDを見る機会がありました。そのDVDでは、京セラに敏腕の会計担当が入社して来た時に、会計処理方法を巡って大きくぶつかったというような話から始まりましたが、費用を出来るだけ早く計上し、収益は出来るだけ遅く計上するという保守的な会計処理を行った上で、利益を確保するような経営を行っていれば、会社はちょっとやそっとのことで揺らがないといった考え方が、色濃く出た内容となっていました。
例えば、設備機械の減価償却の話では、「実際には機械設備の耐用年数は、機械の使用状況により変わって来る。同じ機械でもセラミックの様に固い素材を扱うような場合と、プラスチックのような柔らかい素材を扱う場合では、当然機械の消耗度も異なり、実際に使用可能な年数は、相当差が出て来るのに、これを一律に法定耐用年数で処理することは誤りである。」という様に話をされていました。この様な考え方は、正にその通りであると思います。
ただ例えば1億2千万円した、法定耐用年数6年の機械を毎年定額で、法定耐用年数に亘り償却していくとすると、年間の費用は2千万円となります。一方この機械が実際には3年間しか使用出来ない場合に、3年間で償却を行えば年間の償却費は4千万円になります。使用できる期間が3年間であると見積もられるであれば、3年間に亘り、毎年4千万円の償却費を計上する処理が本来行うべき正しい処理です。ところが税金計算上では、どちらの処理を行っても、初年度、2年目とも2千万円の費用しか認められませんので、結局支払う税金の額は同じです。
そのため決算書では、税務上の法定耐用年数で償却を実施した方が、税引後の利益が2千万円多く計上されることになります。
多くの中小企業では、銀行から借り入れをしていますので、税額が変わらないのであれば、少しでも利益が多く出ているように見える決算書を作成するというのが一般的です。そうすると結局は税法の定める耐用年数に従って償却を行った会計処理が行われることになります。
その後3年間が経過し、その機械設備を廃棄するとなったような場合、3年間に亘り4千万で償却をしていたのであれば、毎期同額の費用が会計上計上され、除却時の簿価は0となりますが、税法に従って処理をしていた場合では、1年目、2年目は2千万円、3年目には除却損も含めて8千万円の費用が計上されるといった会計処理が行われることになります。
どちらの処理が皆様の感覚に合っているでしょうか?
税金計算上は後者の金額が税務上の損金として計上出来る金額であり、どちらの会計処理をしても毎年の税額は同じですから、後者の方でしょうか?
おそらく大体の方は、前者の処理の方が、しっくりくるのではないかと思います。
しかし大体の会社は後者の処理を行っています。
また法定耐用年数よりも、かなり長く使用可能といった場合には、法定耐用年数よりも長い期間で償却をしていくことが、実態に合っていますが、そうすると税務上費用に計上出来るものを、わざわざ先送りすることになりますので、このような場合でも税法に従った処理が行われるのが一般的です。
このようなケースにおいて同氏がどのように処理をするべきと考えているのか分かりませんが、この場合には保守的な会計を目指すということで、法定耐用年数に亘って償却を行うのではないかと思います。
塾長は、「1年分の家賃を支払ったのであれば、支払った際に全額費用に計上すべき」といったことまで語っておりましたたが、逆にここまで行う企業も非常に少ないと思います。この処理については、会計専門家の立場からすれば明らかに行き過ぎであり、1年分の家賃を前払費用に計上し、1年間に亘り均等額を費用計上していくのが正しい処理であると思います。
いずれにせよ会計処理方法の選択により、毎年の利益は大きく変わってくることになります。そうすると会計上の利益は経営者の考え方により大きく変わってくる余地が多分にあり、絶対的に正しい数値など存在しないことになります。
このように利益は経営者の考え方次第で大きく変わります。
そのため取引先等の経営状況を判断する上では、行われた会計処理をきちんと理解した上で、数値を見ていく必要があります。
中華系企業などでは利用目的に応じ、3つの異なる決算書があると言われます。最近どこかで似たような話が話題になりましたが、やはり数値の背景を読み解く正しい目を養うことが重要であると思います。