先日私が関係するある会社様のフィリピン子会社で税務調査がありました。その税務調査に立ち会いを行いました。従前フィリピンでの税務調査は、調査とはいっても実際に会社には来ずに、帳簿や証拠書類を山ほど提出させて、税務署の所内で資料を見て行うというのが一般的なスタイルでした。
しかし今回様子がだいぶ変わり、調査官は女性二人でしたが(一人はいかにもベテランといった40代位の方。もう一名は新人さん)、コーヒーブレイクの誘いや、昼食の誘いにも乗らず、黙々と調査を行っていました。以前は会社に訪問する場合、昼食近くにやってきてまず食事をしてから、1時間程度お茶を濁して帰っていくといったことが多かった様ですが、かなりまともになったという印象を受けました。
さてその際に一点問題となったのが、日本の親会社に対して支払う技術使用料の件に関して、租税条約の適用申請を見せて下さいという件でした。
日本とフィリピンの間でも、使用料に関する租税条約が締結されています。租税条約の適用が無い場合には、使用料の海外への支払いについては、30%の源泉税率が適用されます。一方租税条約の規定によれば10%の源泉徴収で源泉を行えば良いケースに該当し、同社では10%での源泉を行っていたために、このような話がありました。
ここで経理担当の方がスムーズに適用申請に関する書面を提出出来れば良かったのですが、技術指導料の支払契約を締結した当時の会計担当の方では無かったために、なかなか資料を探す出すことが出来ない様子でした。
さて租税条約については、2国間にまたがる取引に関して、両当事国の課税権の調整を図り、国内法に優先されて適用され、通常課税を軽減するために適用されます。
そこでフィリピン国内法では30%の源泉税率である本取引について、日本との取引については10%にしましょうという規定が設けられています。
ただ租税条約の適用については、規定があるからその税率を適用すれば良いのではなく、適用をするための申請を行う必要があります。
今回の場合には技術使用料を受け取る日本の会社が、技術指導料を支払う側の会社が存在する国(この場合はフィリピン)で申請を行う必要があります。
従ってこの申請を怠っていたとなれば、3倍の源泉徴収が必要であったということになり、税務当局としては、当然確認をして来たわけです。
もちろん日本側から、海外に技術指導料を支払うといった場合においても、日本において租税条約の適用申請を行う必要があり、これを怠った場合には、日本の国内法での源泉税率(20.42%)の源泉徴収が必要ということになります。
ただ日本では、申請をきちんとおこなったのであれば、仮に申請時の書類が見当たらないとしても、税務当局側では提出の事実があればそれで問題とはならないと思います。ところがフィリピンなどでは、納税者側がきちんと書類を保管し、それを提示することが出来なければ、税務当局側には提出された記録が存在していたとしても、申請がなされていないという主張をされ、追徴課税が行われるといったことが当たり前に行われています。
今回の件の顛末はまだわかりませんが、いずれにせよ租税条約を利用して、軽減税率の適用を受ける場合には、「きちんと申請を行う」ということが非常に重要であるということをご理解下さい。
追徴時には、利子や延滞税もかかってきますので、申請の有無一つが、相当の痛手になるケースも多々あります。
御社が海外に子会社などが無い場合でも、海外から利子、配当、技術指導料などを受け取るケースがあるかもしれません。その場合にはいずれの場合でも租税条約の適用申請を行わなければ、軽減税率の適用は出来ません。
また、たまたまお知り合いの海外企業に技術の提供をしてもらい、その企業に対して技術指導料を支
払場合なども、日本側で申請が必要なことを、知らせてあげる必要があります。
自分の企業でも関係ありそうだと思われる方は是非、一度国税庁のホームページなどをご覧になってはいかがでしょうか。