今月初旬に青森、仙台、盛岡の3か所において、国際税務に関するセミナーを行って来ました。
そこでは最近の日本の国税局の、国際課税に関する動きと、シンガポール等のアセアン諸国の税務に関して話をいたしました。その中で、アジア諸国に複数の子会社を抱えるような企業が、シンガポールに子会社を管轄する地域統括(Regional Head Quarter)を設立し、節税を図るような例が多いとの説明を行いました。
そこで今回はシンガポールに地域統括本部を作ることで、どのように節税が出来るのか、そのスキームに関して簡単に説明したいと思います。
日本にある会社が、タイ、ベトナムに100%出資の子会社を持っており、その子会社に対して、貸付を行い、更に技術指導料を徴収しているケースを考えます。
今年度タイの子会社、ベトナムの子会社の双方から、配当金1,000万円、利子500万円、技術指導料800万円を受け取っているとします。
ここで日本の親会社はタイ、ベトナムの両国で租税条約の適用申請を行い、租税条約に規定された低税率において、現地で課税されるものとします。
両国との租税条約を調べますと、タイからの配当金は15%、利子は25%、技術指導料は15%、ベトナムからの配当は10%、利子は10%、技術指導料は10%で源泉徴収がされることになります。
また現在日本の税法では、海外からの配当金については配当金額の5%が課税所得となり、残りの95%は非課税となります。ただし海外で徴収された源泉徴収税は、日本での納税時に、差し引くことは出来ません。
一方受取利子、技術指導料収入については、その全額が課税されますが、支払時に源泉された海外での税金は、日本の納税時に差し引くことが出来ます。ここで日本の税率(法人税、法人住民税、事業税)を30%とすると、税金は以下の様になります。
配当:(3か国合計分) 1,000万円×15%+1,000×10%+2,000万円×5%×30%=2,800,000円
利子:(3か国合計分) (500万円+500万円)×30%=3,000,000円
技術指導料:(3か国合計分)(800万円+800万円)×30%=4,800,000円
合計 10,600,000円
一方シンガポールに地域統括本部を設立して、統括本部がこれらの収益をタイ、ベトナム法人より受け取り、その金額を日本法人に配当するとなると、どのような課税金額となるかを次に計算してみます。
なおシンガポールに地域統括本部を設立する際に、タイ、ベトナムの100%子会社の株を、現物出資する形で、シンガポール法人を設立する場合、日本の税法上「特定現物出資」として、無税にて所有する株式をシンガポール法人に譲渡し、その代わりにシンガポール法人の発行する新株を取得することになります。
さてシンガポールとタイ、ベトナムの両国間の租税条約について調べると、タイからの配当金は10%、利子は15%、技術指導料は10%、ベトナムからの配当は5%、利子は10%、技術指導料は5%で源泉徴収がされることになります。
他方シンガポールでは海外からの配当金は、以下の3つの要件を持たす場合は非課税となります。
① 該当する所得がシンガポールに送金された国において最高法人税率が15%を超える場合
② 該当する所得が、その国において課税されている場合
③ 免税の適用が納税者にとって有益となる場合
そうすると両国からの配当金は、シンガポールでは課税所得には参入する必要がありません。
一方受取利子、技術指導料については課税対象となりますが、シンガポールでは法人税率が17%であり、その他地方税はありません。また海外で課税された税金は、納税時に差し引くことが出来ますので、税額は以下の様になります。
配当:(タイ、ベトナム分) 1,000万円×15%+1,000万円×5%=2,000,000円
利子:(3か国合計分) (500万円+500万円)×17%=1,700,000円
技術指導料:(3か国合計分) (800万円+800万円×17%=2,720,000円
合計 6,420,000円
ここで日本法人は、シンガポール法人より税引き後の収入を全て配当で受け取るとします。
そうすると配当される金額は、39,580,000円ですが、シンガポールの法人が海外に配当する際には、源泉徴収はされません。そこで日本では以下の課税となります。
配当:(日本分)39,580,000円×5%×30%=593,700円
そうすると日本法人が受け取るまでに、タイ、ベトナム法人からの配当、利子、技術指導料にかかる総課税額は合計で7,013,700円となります。
結果的にシンガポール法人を間に介入させることを通じ、本例では3,586,300円の節税が図れることになります。総額4,600万円の収益に対し、これだけの節税(約7.5%)が図れるというのは大きいですよね。
ここでのポイントは、①シンガポール法人税法における配当金の取り扱い、② 日本への送金時に、配当に形を変えて送金するということです。
日本法人は利子や技術指導料としてでは無く、配当に形を変えて受領することで、その5%部分のみが課税所得になり、更に配当送金時に送金国側で源泉がされないということであれば、大きな節税が図れることになる訳です。
通常間に介入する法人が増加すれば、税額負担は大きくなりますが、シンガポール法人を介入させるのであれば、逆に税額を大きく減らすことが出来るということになります。
このような例を通じ、何故シンガポールに地域統括本部を設立するのか、その理由がお分かりいただけたと思います。
ただシンガポールは税率だけではなく、実際にオペレーションをするにも便利な場所であるため、このような形で、地域統括本部を設立するケースが多いと思われます。