およそ30年前に社会人になり最初に行った仕事は、公認会計士としての会計監査業務でした。会計監査では、監査対象の企業様等(被監査会社等)にお伺いし、被監査対象会社の作成する会計帳簿が正しいものであるかどうかを、証拠書類等と付け合わせることにより確認します。また会社が作成する財務諸表の内容が、会社の状況を正しく示しているかどうかを確認し、その結果について意見を表明致します。
私自身会計監査業務を離れすでに20年程経過していますが、会計監査の役割は今でも変わりません。ただ私が公認会計士としての業務を開始して数年経過したころから、会計不祥事問題が度々発生するようになり、そのたびに会計監査を実施する会計士側にとっては、監査結果についての審査体制が厳しくなり、世間から会計監査人を見る目も厳しくなっていきました。昨今では東芝のような企業において、決算を長期間公表できないといった問題が発生しましたが、監査人の責任も含め、今後益々会計監査業界に対して、厳しい目が向けられていくものと思われます。
いずれにせよ投資家、財務諸表の利用者が安心して企業等が公表した財務諸表を利用出来るようにするために、会計監査人はプロフェッショナルとして正当な注意を払い、きちんとした監査を行わなければいけないことはいうまでもありません。
一方私が最近開始した技能実習生の受入業務ですが、こちらでも定期的に実習生を受け入れた企業様を訪問し、監査を行うことが要求されています。ここで行う監査は、会計面ではなく、労務面中心の監査であり、賃金がきちんと支払われているか、届け出を行わないで残業をさせていないか、社会保険料の控除金額には誤りが無いか?といった点や、企業と会社の労使関係が上手くいっているか?といった内容について監査を行うことになります。
しかし技能実習生の監査においても、監査を行う立場にある監理団体がきちんとした監査も行わずに、「問題なし」という監査報告だけを行うといった例が後を絶ちません。
その結果昨年度11月に法令改正があり、今年度11月1日より改正法の下で技能実習制度が運営されるjことになりますが、従前と比較して制度全体を監視する団体として、「外国人技能実習機構」という団体が設立され、法的権限を付与され、不正行為に関しては罰則を科すことができるようになりました。今後制度を不正に利用してきた企業や、監理団体側から、逮捕者が出るようになると言われています。
両方の業界に足を置いて感ずることは、制度発足当初においては、ある意味、不正行為や重大な瑕疵などが無い限りは、「大目に見る」余地が残されていたものが、不正や重大な瑕疵が度々発生することで、制度自体が非常に厳しいものになって行き、「大目に見る」余地が無くなっていくということです。いわゆるグレーゾーンがどんどん狭められて生き、白黒はっきりつけるような制度運用になり、黒については厳しい罰則規定を持って対処するといった形に制度が形を変えていくということです。
この二つの業界は、全く違う業界ではありますが、業務の本質においては非常に似通っているということを感じております。
「監査」を行う立場の人間は、監査対象企業様などから監査報酬をいただきます。しかし監査対象企業様に対して、時には苦言を呈さなければならないこともあります。この時報酬をいただいている立場からすれば、苦言を呈することがためらわれるということはあるでしょう。ここで軽微な問題に対しては目を瞑るとしても、重大な問題については相手側に是正させる必要があります。契約解除などのリスクはありますが、このリスクは取らなければなりません。
「監査」という制度の背景には、日本の文化とは相いれない「性悪説」が根底にあるように思います。誰かがチェック機能を果たさなければ、人は誤ることもあるし、時には不正を働くこともあるので「監査」が必要なのです。
私自身、会計監査業務に面白みが感じられず、監査業務を離れ、企業に対するアドバイスを行う立場に身を転じてきました。しかしいつの間にかまた、監査を行う立場に戻ってきたことになります。
今の立場に立って思うことは、技能実習生の受入を行い実習実施者(受入企業)に対し、苦言を呈することが無いように、制度をきちんと理解した上で、法律に従って技能実習制度を利用し、労使共に制度を利用して良かったと思っていただけることです。