~東南アジアの税務調査の今昔~
前回メルマガを出してから相当時間が空いてしまいました。その間フィリピンにおいて、久々の大型の税務調査の対応などがあり、その対応などに追われてしまい申し訳ありませんでした。
ということで、今回はフィリピンにおける税務調査の今昔について書いてみたいと思います。恐らく他の東南アジア諸国などでも、多少タイムラグはあるものの、おそらく似たような状況にあるものと思います。
さて数年前までの税務調査では、まず調査官が会社を訪問することは稀であり、最初に膨大な量の書類のコピーを要求され、その書類の内容をもとに指摘事項が示されてくるのが一般的でした。
今回の税務調査においても、事前の書類要求はありましたが、その後調査官が会社を訪問し、熱心に帳簿関係、証拠書類の閲覧を行っていきました。
対応する企業側としては、コーヒーブレイクや、昼食に誘い出し、調査時間を減らそうとしましたが、そのような誘いも断り、一心不乱に調査を行っていった姿は、フィリピンも大分変って来たなという印象を強く持ちました。
数年前までは(調査に来ることは少ないですが)、まず昼食時間前頃に現れ、まず食事をご馳走になってから調査に取り掛かるといった状況でしたし、調査に来た際などには、これだけ時間を掛けて訪問しているのだから、何かお土産(税金を過少に申告していたものとして、追徴を認めること)を出しなさいといった態度でした。
更に笑い話ですが、決算が終了する前に税務調査官が現れ、「今回台風があって自宅が破損したので、税金を前払いで支払って欲しい。」というようなケースまであったと聞きましたが、このような状況は今回皆無でありました。
また調査結果における指摘事項についても、まだおかしいと思う様な内容も多々ありましたが、従来指摘された人材派遣会社への派遣料の支払いに対し、派遣会社ではなく、その利用者に派遣社員分の源泉徴収税を求めたり、海外の企業へ支払ったサービス料については、その全てに対し源泉徴収を要求したりといった、調査官の不勉強に基づく指摘は、相当減少した様に思います。(国内で行われたサービスに対して、所場代として源泉するのが正しいです。)
その一方帳簿や、請求書などを細かく見るのではなく、決算書数値を重視した調査手法はそのまま生きており、例えば決算書に計上されている“賃借料”という金額に対し、そのすべての取引が5%の源泉徴収対象として、源泉徴収額のあるべき金額を計算し、実際に源泉徴収を行った金額と比較して、その差額を未納分の源泉徴収分として指摘するといったことは、今回の調査でも実施されました。
例えば東南アジアでは、税制優遇がある工業団地内などに入居する企業が、その工業団地運営会社に支払う賃貸などは、工業団地運営会社自身が無税の取り扱いを受けている場合には源泉徴収は不要です。 したがってこのような指摘を受けると、無税での賃貸案件の明細を作成し、その個々の案件毎に、無税である証明を提出しなければいけないなどの煩雑な手続きは未だ必要でした。
また今回最も難儀したのが付加価値税(日本の消費税に類似した税金)であり、日本と同様に、海外の企業様に対して輸出した製品については0%ですし、国外にて提供されたサービスであれば、課税対象外なのですが、営業外の収益に対し、その全額を付加価値税の対象であるという指摘がなされ、その内訳を一つ一つ説明し、この金額は海外向けの取引分だから非課税であるといった証拠を、
一件、一件提出する必要がありました。
日本であれば、まずは個々の取引を調べ、その取引について疑問があれば、その点について調査をしていきますが、これとは対照的に、決算書での各費目の合計金額に着目し、「この金額であれば、付加価値税は幾らである、源泉徴収税は幾らである。違うものがあれば証拠を出しなさい。」というような指摘がなされるため、その対応にはかなり骨が折れます。
ただフィリピンの様な国においても、税務調査の在り方は、相当まともになって来たという印象を今回強く感じました。また以前は多くあった、アンダーテーブルでの解決についても、相当減少して来た様でありますので、納税者側も、交渉でなんとかなるといった安易な気持ちは持たないようにする必要があると思います。